平安時代を終わらせた影の立役者 八条院・暲子内親王
私が大好きな『平家物語』の2大姉妹
姉:上西門院・統子 と 妹:八条院・暲子
今回は鳥羽院の皇女で異母姉妹の妹、八条院・暲子内親王を取り上げる。
私はこの女院こそが貴族の世を終わらせた影の立役者だと思っている。
八条院が貴族の世を取り戻そうと奔走した結果、時代が完全に武士の世となろうとは、女院自身、想像もしなかったに違いない。
安楽寿院領をはじめとする多くの荘園を父母から相続した八条院は、自分の役割はその
財産と貴族の世を守ることだと強く認識していたのではないだろうか。
具体的に八条院が何をしたか。
まずは財産を増やした。
そして武士勢力打倒のために金を出したのだと思う。
前回、白拍子の財テク(?)について書いてみたが、その中でこの時代を代表する大荘園群として長講堂領と八条院領があると書いた。
では八条院が誰にお金を出したかというと、まずは養子の以仁王。
平家打倒の口火を切った人物だ。
そして後鳥羽上皇。
後白河院の寵愛を得て高倉帝を生み、平家躍進の礎となった建春門院・滋子。
どういうわけか『平家物語』では、我が子を帝位につけるために継子の以仁王を蹴落とした悪女ということになっている。
なぜ以仁王が以仁「王」であって親王じゃないか、というと「親王宣下」とやらを受けていないから。
親王になれそうもない以仁王が天皇に即位なんかあるわけないし、彼が親王ですらないのは建春門院は関係ない。
以仁王の母・藤原成子は何人も後白河院の子どもを生んでるようだから、それなりに寵愛を受けた女性だと思われるが、いかんせん実家の援助が頼めないのだろう。
皇子は出家を条件でしか親王にしてもらえなかった。
以仁王は出家の道を選ばなかったわけで、もちろん野心はあるとしても後ろ盾が必要だ。
その有力な後ろ盾が、他でもない八条院・暲子内親王なのである。
1180年、以仁王は挙兵して平家打倒の令旨を発するわけだが、この令旨は数多ある八条院領を通じて行われているし、挙兵の資金も出せるとしたら八条院しかいない。
普通に考えて、黒幕は八条院その人だ。
以仁王の挙兵はあっという間に鎮圧され、以仁王は殺されてしまうわけだが、平家の軍勢は八条院の御殿にも押し寄せる。
そりゃあね、スポンサーだし、普通ならタダでは済まないが、なーんと八条院は養子にしていた以仁王の遺児を差し出すことで事なきを得てしまう。
挙兵が失敗した以上、以仁王の息子には死か出家以外の選択肢はないし、幼子は殺さないのが平家だから、多額の賄賂を添えて助命を嘆願したんだろうな、とは思う。
でもね〜〜〜
『平家物語』では八条院はものすごくいい人として描かれていて、なんだかどうも釈然としない。
もちろん悪い人ではないだろうが、もっとこう意志のあるシャキッとした女性だと思うのだけどな。
以仁王が出した平家打倒の令旨に応える形で木曾義仲が挙兵し、平家は都を追われることとなる。
その義仲も源氏に討たれ、逃げた平家も源氏に討たれ、義経もまた源氏に討たれ・・・
源氏の頭領は遠く離れた鎌倉に幕府を開いたため、京の都は平家が台頭する以前の賑わいを取り戻したのだろうか。
もしそうなら、八条院はとても満足して人生を終えたに違いない。
両親から相続した財産を増やし、それを使って貴族社会を混乱させた武士たちを取り除き、最後は天皇に即位した後鳥羽院の皇女に自分の財産を相続させた。
娘の財産は親のものだから、実質的には後鳥羽院に譲ったとも言えて、この経済基盤を背景に承久の乱を起こすことになるわけだが、それは八条院が亡くなって10年ほど後の事。
八条院自身は、財産と貴族の世を守るという自らに課された使命を全うし、満足して旅立つことができただろう。
それとも、動き出した歴史の流れは止めようもなく、穏やかな平安の時代から血で血を洗う戦乱の世の中へのうねりを感じながら息を引き取っただろうか。